大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(モ)4036号 判決

申請人 日本油脂株式会社王子工場労務組合

右代表者 組合長

被申請人 日本油脂株式会社

一、主  文

当裁判所が昭和二十四年(ヨ)第二一八五号仮処分申請事件につき昭和二十四年十月二十六日なした仮処分決定はこれを取消す。

申請人の本件申請はこれを却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

二、事  実

第一、申請の趣旨

申請人代理人は、「主文記載の仮処分決定は、その一、の項のうち『労働條件』(三行目)とあるのを、『労働條件その他労働者の待遇』と変更して、これを認可する。」との判決を求め、

被申請人代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

第二、申請の理由

申請人代理人は、申請の理由として、つぎのとおり陳述した。

一、被申請人は、油脂工業をいとなむ会社であり、本社のほか、王子工場等をもつている。王子工場には、從來正規の從業員(以下「一般從業員」と略称)三百二十余名があり、日本油脂株式会社王子工場從業員組合(以下「從業員組合」と略称)を組織している。

二、被申請人会社は、「一般從業員」に対し、昭和二十三年三月一日就業規則(「油脂部門從業員就業規則」及びこれに基く「油脂部門從業員給與規則」その他、就業規則の実質的内容を有するものをも包含する。)を制定し、現にこれを実施している。

三、又被申請人会社は、昭和二十二年二月十七日「從業員組合」とのあいだに労働協約を締結したが、右協約は自動的に更新せられて、現にその効力を有している。

もつとも、被申請人会社は昭和二十四年十月一日「從業員組合」とのあいだに右協約(以下これを「第一の協約」と略称)のほかに、新労働協約(以下これを「第二の協約」と略称)を締結し、(ただし「第二の協約」については、当事者の署名捺印はない。)解雇の規定を除き、その諸條項を実施している。ところで、「第二の協約」の各條項は、「第一の協約」の履行として「從業員組合」の獲得したものである。すなわち、その多くは「第一の協約」に基き、労使協議の上定めた就業規則とその内容を同じくするものであつて、結局「第一の協約」の内容であり、その細則である。而して、「第一の協約」の解雇に関する條項が生きているから、「第一の協約」の内容のすべてが生きていることとなるのである。すなわち、「第二の協約」の調印はないが、調印された「第一の協約」の内容を定めるものとして、「第一の協約」の基礎の上に実施することにしたのである。

四、なお、被申請人は、「第一の協約」は、その締結の日から起算して満三年を経過した昭和二十五年二月十六日限り失効したと主張するが、

(一)  労働組合法第十五條第一項の趣旨は、協約締結後満三年経過前に当事者が覚書等により、その効力の存続を承認することを禁止する趣旨ではないというべきである。

(二)  而して、昭和二十四年二月十六日附覚書により、被申請人会社は、新協約が成立するまで「第一の協約」を有効とする旨確認しているが、労働組合法第十五條第一項所定の三年の期間は、右覚書作成の日から計算すべきである。

(三)  しかるに、その後「第一の協約」又は右覚書については、被申請人会社から「從業員組合」に対し、これを破毀する旨の通告がなされていない。

從つて、「第一の協約」は現にその効力を有するものである。

五、ところで、申請人組合所属の組合員は、もと労務供給業者中沢組に所属し、被申請人会社王子工場において、日傭労働者として、いわゆる倉入れ作業を主とし、その他の補助的作業を行つていたが、労務供給業の廃止に伴い、被申請人会社に直接雇われ、臨時直傭員の名を以て呼ばれることとなつた。その後、その雇用期間は一應二ケ月と定められたが、二ケ月毎に更新せられ現在にいたつている。

申請人組合は、これら直傭員の労働條件の向上を図る目的で、昭和二十四年三月一日右直傭員四十九名中四十二名を以て組織せられた労働組合である。

六、而して右臨時直傭員は、「一般從業員」と同種の労働者である。すなわち、

(一)  採用方法

「一般從業員」について、現在は学科試驗を課しているが終戰後應募者の少い頃にはこれを課していなかつた。直傭員についても、新しく採用されるもののうちには、学科試驗と面接試驗をへて採用されたものもあるが、中沢組時代から引つづき使用されているものについては、実際の労働により試驗されていたので、直傭員となるとき、特に試驗の必要がなかつたのである。

なお、「一般從業員」に要求されている「身元保証書を添えた労働契約書」は、被申請人会社において直傭員に対し、任意にその提出を要求しないだけのことであつて、直傭員は、その要求があれば、いつでもこれを提出するものである。

(二)  雇用期間

「一般從業員」と直傭員との雇用期間は異つているが、このことは、両者が同種であるか否かを決定する標準となるものではない。

(三)  停年制

直傭員のうちには、「一般從業員」としては停年に達したものも含まれていることは相異ないが、このことも、また両者が同種の労働者であることを否定する理由となるものではない。

(四)  作業内容

「一般從業員」と直傭員の作業内容についてみると、

(1) 從來「一般從業員」のしていた仕事を直傭員がなし、

(2) 「一般從業員」と直傭員が組になつて作業をなし、

(3) 「一般從業員」と直傭員は相互に相手方の仕事を手傳つている。

而して、両者の仕事は、從來一定の仕事を中沢組に請負わせていたことから分かれたものにすぎない。

なお「一般從業員」に熟練工の多いことは事実であろうが、直傭員の中にも、たとえば、旋盤工がいるように熟練工とみるべきものを含んでいる。

しかし、直傭員の作業は、決して臨時的のものでなく、一般的のものである。そして近代工業化は、分業によるものであるから、すべての從業員が同一の作業に從うはずはないとともに、機械の発達は熟練工の必要を減少せしめているので、作業の熟練度のいかんによつて、同種であるか否かがきまるとはいえないのである。「一般從業員」のなかにも、補助作業しかしないものが多いことは当然である。

(五)  「一般從業員」の範囲

「一般從業員」のなかには、職員、工員、理髮師、寮母、食堂從業員、守衞など、極めて廣汎な職種を含み、これらのものが、同一の労働協約に服しているのである。

七、かくて労働組合法第十七條により、全從業員の四分の三以上を占める「一般從業員」に適用せられる前記「從業員組合」の労働協約は、申請人組合の組合員にも適用せられるといわなければならない。

八、又「一般從業員」に対する前記就業規則は、労働者の待遇に関する事項の大綱を定めた「第一の協約」に基き、協約締結と同一の方法で審議され、確定し、且つ労使双方によつて確認書が作られたものであるから、それは労働基準法上の就業規則であるとともに、書面に作成せられた労働協約である。

而して、同一の職場にその労働條件の基礎を異にする二個の就業規則はあり得ないのであるから、右就業規則は申請人組合員にも適用せらるべきものである。

九、かくて申請人組合の組合員は、前記「第一の協約」及びこれと一体をなす「第二の協約」並びに、前記就業規則に定められた労働條件に從つて処遇せらるべきものである。

一〇、仮に「第一の協約」が現在失効しているとしても、

(一)  労働組合法第十七條の規定は、憲法第二十七條第二項にのつとり、同一職場内の一部の労働者が他の大部分の労働者よりも不利益な処遇を與えられるという不平等を是正して、その生存権と労働する権利を保障しようとするものである。

それゆえ、労働協約が書面に作成せられ、労使双方が確認して実施している場合は、たといその協約が労働組合法上の要件を欠いていても、その協約に対しても、同法第十七條の適用あるものと解すべきである。

從つて申請人組合の組合員は、「第二の協約」によつて処遇せらるべきものである。

(二)  更に、仮に、「第二の協約」が成立していないとしても、「第一の協約」が適用された結果、申請人組合の組合員の労働関係を律していた労働條件は、「第一の協約」が失効した後にも、既得の権利として残つているのであるから、申請人組合の組合員はその労働條件に從つて処遇せらるべきものである。

一一、しかるに、被申請人会社は、申請人組合の組合員に対し「一般從業員」と差別した労働條件を以て、その労働関係を律しているので、申請人組合は、被申請人会社を相手方として労働條件確認の本案訴訟を提起するわけであるが、本案判決の確定をまつては、回復し得ない損害を生ずるので、被申請人会社が申請人組合所属の組合員とのあいだに締結した雇用契約に基く労働條件については、被申請人会社が「從業員組合」とのあいだの前記労働協約並びに「一般從業員」に対して制定した就業規則に從うべき旨の仮処分決定を求めたところ、昭和二十四年十月二十六日右申立にそう決定を得たので、右決定中「労働條件」とあるのを「労働條件その他労働者の待遇」と変更してその認可を求める。

一二、なお被申請人会社が、

(一)  昭和二十四年十二月七日直傭員に対し、「臨時從業員就業規則」を制定したこと、

(二)  昭和二十五年四月二十二日申請人組合とのあいだに被申請人主張のような協定書を作成したことはこれを認めるが、

(一) 右就業規則は、一般的拘束力により適用されてきた「一般從業員」の労働協約及び就業規則よりも、はるかに惡い労働條件を含み、これを一方的に改惡したものであるから無効である。

(二) 右協定書を労働協約と同視し得るとしても、この協定書は前記仮処分決定を被申請人会社が履行しないので、その履行を求めるための団体交渉及び爭議行爲を中止するために行われたもので、被申請人会社が、右決定の適用をここまで認めるという意思表示をなしたものにすぎず、申請人組合が既得の権利の変更を受認したものではない。

一三、「從業員組合」は、昭和二十四年三月頃から、被申請人会社に対し、賃金値上げ及び労働協約締結のための爭議を行い、同年四月二十四日より同月二十七日までの四日間油脂部門において部分ストを行つたのであるが、その間、同部門に勤務していた申請人組合の組合員(別紙目録(一)(二)記載のもの)は休業を命ぜられた。

而して被申請人会社の就業規則である從業員給與規則第十三條は、被申請人会社のつごうによる休業の場合には、賃金の全額を支拂う旨、同第十四條は、被申請人会社の責に帰し得ない休業で短期の場合には賃金の全額を支拂う旨を規定している。

一四、ところで、右ストライキによる休業は被申請人会社の責に帰すべき事由による休業にほかならないから、民法の規定によるも、又右從業員給與規則によるも、被申請人会社は右申請人組合の組合員に対して、賃金全額の支拂をなすべき義務があるにもかかわらず、内一日分の賃金を支拂つたにすぎない。

一五、そこで、申請人組合は右組合員のため、右賃金残額及びこれと同額の附加金(別紙目録(一)記載の金員)の支拂を求めるわけであるが、右組合員は、その支拂を受け得ぬため、回復すべからざる損害をこうむつているので、右賃金及び附加金の即時支拂をなすべき旨の仮処分決定を求めたところ、昭和二十四年十月二十六日右申立にそう決定を得たので、その認可を求める。

第三、答弁並びに抗弁

被申請人代理人は、答弁並びに抗弁として、つぎのとおり陳述した。

一、賃金の支拂を求めることは、個々の労働契約上の権利にほかならないのであるから、現実に発生した賃金支拂請求権については、労働組合において、これが管理処分権を有しないのである。それゆえ、申請人組合が、かかる権能を有することを前提として、組合員に対し賃金を支拂うべき旨の仮処分を申請する適格はない。

二、申請人主張の事実中、一、二、五、一三項の事実、三項の事実中被申請人会社が昭和二十二年二月十七日「從業員組合」とのあいだに「第一の協約」を締結したこと、及び昭和二十四年十月一日以降申請人主張のような「第二の協約」を解雇の規定を除き実施していること、四項の事実中昭和二十四年二月十六日申請人主張のような覚書を作成したことは、いずれもこれを認めるが、「第一の協約」が現に効力を有すること及び「一般從業員」と直傭員(申請人組合の組合員)とが同種の労働者であることは、これを否認する。すなわち、

三、「第一の協約」は「第二の協約」を実施した昭和二十四年十月一日以降失効している。仮に当時失効しなかつたとしても「第一の協約」を締結した日から三年を経過した昭和二十五年二月十六日以後その効力を有しないのであつて、このことは、「從業員組合」も認めているところである。

四、「一般從業員」と直傭員とを比較すると、

(一)  採用方法

「一般從業員」については、嚴重な詮衡を経て、所定の基準に該当するものだけが採用され、且つ身元保証人を要求されているが、直傭員については、右のような詮衡を行わず、且つ身元保証人も必要ではない。

(二)  雇用期間

「一般從業員」については、その採用にあたり二ケ月を限つて試傭期間を設けることがあるが、原則として雇用期間は定めのないものであるのに反し、直傭員は、当初から臨時に採用されたものであるから、その雇用期間は二ケ月であり、会社業務のつごうによつて、二ケ月ずつ更新されてきたにすぎないものである。

(三)  停年制

「一般從業員」は、満六十才を以て停年とするに反し、直傭員については、停年制がない。

(四)  作業内容

直傭員は「一般從業員」の指揮監督下に、主としてその補助作業ないし雜役に從事し、これらの職務は熟練を要せず責任の軽い職務であつて、「一般從業員」の作業とは、明かに差が存するのである。

五、なお「從業員組合」は、

(一)  会社の利益を代表するものと認められる係長(勤労、会計係長を除く)守衞全員が、これに加入している。

(二)  労働時間中の組合活動はすべて有給である。

(三)  純然たる組合用務は別として、その他の組合活動における一切の出張旅費は、会社負担であるから、労働組合法上の労働組合ではなく、從つてその労働協約については、同法第十七條の適用がない。

六、更に直傭員は、申請人組合を組織しているのであるが、かかる組織労働者に対しては、右第十七條の適用がないものと解すべきである。

七、加うるに、被申請人会社は、

(一)  昭和二十四年十二月七日直傭員に対し、「臨時從業員就業規則」を制定し、

(二)  昭和二十五年四月二十二日申請人組合とのあいだに直傭員の労働條件につき協定をなしたものである。

八、從つていずれの観点よりするも、「從業員組合」とのあいだの労働協約ないし「一般從業員」に対する就業規則に從つて、申請人組合の組合員を処遇すべきいわれはない。

九、又昭和二十四年三月二十四日から二十七日まで行われた「從業員組合」のストライキによる休業は、被申請人会社の責に帰すべき事由による休業ではないのであつて、被申請人会社は、別紙目録(一)(二)記載の直傭員に対し何等、賃金債務を負担するものではない。

なお被申請人会社は、基準監督署の要望により、平均賃金の一〇〇分の六〇に相当する金員を右直傭員に支拂うことを通告したのであるが、右直傭員はこれを拒否したのであるから、被申請人会社において、附加金の支拂をなすべきいわれはない。

第四、証拠<省略>

三、理  由

第一申請人組合の当事者適格

一般に労働組合が、使用者に対し、その組合員に賃金の支拂等、個々の労働契約上の義務の履行を請求するということの理論構成には、二つの立場を考えることができる。

その一は、労働組合が、その組合員の有する賃金請求権について、管理処分の権能を有し、その権能に基いて組合員の権利を行使し、使用者に対し賃金債権の履行を請求するという考え方であり、その場合判決の既判力は、個々の組合員にも及ぶこととなる。(これを「組合員に代つて」訴訟を追行するということができる。)その二は、労働組合は、組合員の権利を行使するわけではないが、労働契約の履行につき、個々の組合員が個別的に使用者に訴求するときは、技術上、経済上の理由に基き、実効を收め難いので、使用者に団体的に訴求する必要があり、他面、労働組合は、その組合員の権利を保護すべき法的義務を負つているので、その義務を果すため、団体行動の一つの現われとして、訴訟を追行するという考え方であり、その判決の既判力は、個々の組合員には及ばないのである。(これを「組合員のために」訴訟を追行するということができる。)

この二つの考え方のいずれを採るかは、労働組合の機能、ことに、労働組合が組合員に対し、いかなる程度の統制力ないし管理処分の権能を有するかということをどのように理解するかによつてきまるところである。

まず、労働條件の決定及び変更について、労働組合が管理処分の権能を有することは、労働組合法第十六條から明かなところであるが、労働組合の統制のもとにおかれている労働契約(労働協約を締結していない場合は、組合が、個々の労働契約で十分であるとして、これを承認していることに他ならないから、協約がないからといつて、労働契約が組合の統制下にないとはいえない。)に基いて具体的に発生した債権についてまで、管理、処分の権能を認めることは、一應現行法上困難であるといえよう。

しかしながら、労働者の保護を完全ならしめるためには、労働條件の決定から、その労働條件に從つた契約の履行にいたるまでの全段階について、労働組合の関與を認むべきであり、それゆえ、組合の団体行動にゆだねらるべき事項は、右に述べたすべての段階に及ぶと解するのが相当である。このことは、労働組合の代表者は、「組合員のために」団体交渉をなし得ることを定めた労働組合法第六條、労働協約から発生した諸問題、ことに、協約の解釈、執行、苦情処理が団体交渉の対象となるとする米国労使関係法並びに判例等に徴し明かである。かくて、労働組合は、その「組合員のために、」賃金等の支拂を求める義務を負い、且つ、それが使用者に対する関係においては、権利として認められているのであるから、この権利の行使として、「組合員のために、」訴訟を追行し得るといわなければならない。

そこで、更に一歩進んで考えると、団結権は、労働団体そのもののために認められた権利であるから、労働組合が団体行動に訴える限度において、労働者は、労働條件の決定その他使用者との交渉を組合に一任し、正当な事由なくして、個別的な行動をとらないこと、又、とるべからざることを要求されるのである。ところで、労働契約に基き、個々の労働者が取得した権利は、当該労働者の利益にかかわるところが多いのであるから、その労働者にこれが処分権を認めなければならないのであるが、組合の前記機能にかんがみれば、個々の労働者がその権利を自ら処分することなく、且つ、組合が団体の組織力によつてその権利を実現しようとしているときは、組合員は、原則として、その組織的行動に從うべく、(從つて、組合は、その組合員の権利を保障するためこれを管理することとなる。)組合の統制を免れようとするならば、特別の意思表示をなすべきものと解することができよう。

かくて、申請人組合は、その「組合員のために、」その賃金を訴求し得るはもちろん、「組合員に代つて、」その賃金債権を行使し得るということができる。それゆえ、申請人組合は、(少くとも、「組合員のために」という意味において、)本件申請を追行する適格があるといわなければならない。

第二労働協約の一般的拘束力

一、被申請人会社が油脂工業をいとなむ会社であり、本社のほか王子工場をもつていること、王子工場には、「一般從業員」三百二十余名があり、「從業員組合」を組織していること、被申請人会社が、昭和二十二年二月十七日「從業員組合」とのあいだに「第一の協約」を締結したこと、被申請人会社が昭和二十四年二月十六日附覚書により、新協約が成立するまで右協約を有効とする旨確認したこと、並びに、被申請人会社が、昭和二十四年十月一日「從業員組合」とのあいだに右協約のほか、「第二の協約」を締結し(ただし、これについては、当事者の署名捺印はない。)解雇の規定を除き、その諸條項を実施していることは、当事者間に爭がない。

二、そこで、現に労働組合法の要件を具えた労働協約が、被申請人会社と「從業員組合」とのあいだに存するか否かについて判断すると、

その成立に爭のない甲第十一号証、甲第三十一号証の一、二と証人近藤員由、同竹内登の各証言を綜合すると、

「第二の協約」は「第一の協約」を、その実施を留保されている解雇に関する條項を除き、或る部分においては修正、変更し、或る部分においては更に具体的に規定し、その他、新なる事項を規定していること、「第一の協約」を締結した日から三ケ年を経過した昭和二十五年二月十七日以降は、被申請人会社に於て、右「第一の協約」を失効したものとして取り扱い、「從業員組合」もこれに対して特に反対の意見を表明していないことが疏明せられるから、(「第一の協約」の解雇に関する條項が現にその効力を有するとの前記近藤証人の証言は、「從業員組合」の見解を代表するものとは認め難い。)「第一の協約」は、現在すでに失効したものといわざるを得ない。而して、「第二の協約」には、協約当事者の署名のないことは、右にのべたとおりであるから、結局、被申請人会社と「從業員組合」とのあいだには、労働組合法上の要件をそなえた労働協約は現に存在しないといわなければならない。從つて、一般的拘束力の問題の生ずる余地はない。

三、申請人は、少数労働者保護のため、憲法第二十七條第二項の趣旨にのつとり、労働組合法上の要件を欠いているが、現に実施中の「第二の協約」についても、労働組合法第十七條の適用があると主張するが仮に、この見解をとるとしても、「第二の協約」自体單なる紳士協定たる効力を有するにすぎないから、申請人組合は、法律上、その一般的拘束力を主張し得ないものというべく、結局、申請人の右主張は、これを採用することができない。

四、更に、申請人は、「第一の協約」が、一般的拘束力により、申請人組合の組合員に適用された結果、組合員の取得した労働條件は、右協約失効後も既得権として残存する旨主張するが、いわゆる労働協約の事後効を認める立場をとつても、前記甲第十一号証によれば、「第一の協約」の規定するところは、組合の組織、組合活動に関する事項にいわゆる経営参加に関する事項であることが一應認められるから、個々の労働者がそのものの労働條件ないし権利として取得し得べき性質のものでなく、從つて、仮に、申請人組合の組合員に「第一の協約」の一般的拘束力が及んだとしても、右協約失効後は、その効果を主張し得ないというほかはない。

五、從つて、申請人組合の組合員を、右「第一の協約」又は「第二の協約」に從つて処遇すべきことを求める申請人の本件申請は、爾余の判断をまつでもなく失当である。

第三就業規則の適用

一、被申請人会社が、「一般從業員」に対し、昭和二十三年三月一日就業規則を制定し、現にこれを実施していることは当事者間に爭がない。而して、申請人は、右就業規則は、労働者の待遇に関する事項の大綱を定めた「第一の協約」に基き、協約締結と同一の方法で審議され、確定し、労使双方が確認書を作成したものであるから、それは、就業規則たるとともに労働協約である旨主張するが、その成立に爭のない甲第十五号証に徴すれば、右就業規則は、労使双方の協議により作成せられた協定と解するよりは、むしろ使用者が一方的に制定し、その改廃の権利を有しているものと解するのほかなく、從つて、たとえその審議の過程において労使の協議が行われたにもせよ、右就業規則を以て、労働協約たるの性格をも併せ有するものということはできない。從つて、右就業規則について、労働組合法第十七條による一般的拘束力を認めることはできない。

二、又申請人は、同一職場において、同種の労働者につき、労働條件の基礎を異にする二個の就業規則はあり得ないから、右就業規則は、申請人組合の組合員にも適用せらるべき旨主張するが、その就業規則が何人に適用せられるかは当該就業規則自体の規定によつて定めらるべきところ、右就業規則が「一般從業員」に対し制定せられたものであることは、当事者間に爭がないから、直ちに、それが申請人組合の組合員に適用されるということはできない。

三、而して、当裁判所は、本件仮処分決定において、「直傭員と一般從業員とは、その労働條件に付き、差別待遇を受くべき実質的理由は存しないのであるから、直傭員に対する就業規則の制定せられるまでは、一般從業員に対する前記就業規則を直傭員にも準用」すべき旨を判示しているのであるが、その後、被申請人会社が、

(一)  昭和二十四年十二月七日直傭員に対し「臨時從業員就業規則」を制定したこと。

(二)  昭和二十五年四月二十二日申請人組合とのあいだに、その組合員の労働條件につき協定をなし、これを書面に作成したこと。

は当事者間に爭がないところであるから、「一般從業員」に対する就業規則を申請人組合の組合員に準用する必要はなくなつたものといわなければならない。けだし、仮に、「一般從業員」と直傭員とが同種の労働者であるならば、その労働條件につき差別待遇を受くべきではないという命題は成り立つとしても、それは、あくまで社会政策的要請たるにとどまり、法律的には、労働組合法第十七條によるのほか、その要請をみたす方法はないのである。ただ甲、乙が同種の労働者であり、甲については、就業規則があり、乙については、これを欠く場合に、乙につき甲の就業規則を準用させることは可能であるが、乙についても就業規則が存する場合には、乙の労働関係はこれによつて規律せられることとなるから、たとい甲の就業規則が有利でも、これを準用することはもはや不可能であるというのほかはない。乙は、たゞ自己の実力に訴えて、よりよい労働條件を獲得するのほかはないのである。

この点に関し、申請人は、直傭員に対する就業規則は、一般的拘束力により適用されてきた「一般從業員」の労働協約及び就業規則よりはるかに惡い労働條件を含み、これを一方的に改惡したものであるから無効であると主張するが、就業規則には一般的拘束力は認められないのであるから、これにてい触するとはいえないし、又前記甲第十一号証によれば、「第一の労働協約」は、具体的に労働條件を定めたものではないから、「臨時從業員就業規則」がこれらとてい触して無効となると解することは困難であるのみならず、証人彦井彦左衞門の証言と申請人代表者(当時)五十嵐賢次本人訊問の結果とを綜合すると、右「臨時從業員就業規則」に定められた労働條件をめぐり、これを不満とする申請人組合と被申請人会社とのあいだに爭議があり、結局前記昭和二十五年四月二十二日の協定において妥結したことが認められるから、右就業規則は、右協定と相まつて、直傭員の労働関係を規律する法規範となつたものと解すべく、從つて、その労働関係につき、「一般從業員」に対する就業規則は、これを準用するに由なきものといわなければならない。

四、從つて、申請人組合の組合員を、右「一般從業員」に対する就業規則に從つて処遇すべきことを求める申請人の本件申請も、また、他の点につき判断するまでもなく失当である。

第四部分ストライキの場合の賃金

一、「從業員組合」が、昭和二十四年三月頃から被申請人会社に対して賃金値上げ及び労働協約締結のための爭議を行い、同年四月二十四日より同月二十七日までの四日間、油脂部門において部分ストライキを行つたこと、その間同部門に勤務していた申請人組合の組合員が休業を命ぜられたことは、当事者間に爭がない。而して、「從業員組合」のなした右ストライキは、経済的目的をもつてなされたものであるから、これに基因する休業は、ひつきよう、使用者において、労働者の主張するような價格(賃金)ないし労働條件を以ては、労働力を購入し得ないとなすことによるものであるから、一般に、企業(経営)の内面における経営政策上の事由(たとえば、原材料が高價で購入し得ないというようなこと)を以て、不可抗力の抗弁となし得ないと同様、本件ストライキを以て、被申請人会社の責に帰すべからざるものとなすことはできない。そこで、本件ストライキによる休業は、被申請人会社の責に帰すべき事由による休業であるということになるのであるが、それが民法第四百十三條或いは、同法第五百三十六條第二項の適用を受けるか、又は、労働基準法第二十六條の適用を受けるかということが問題となる。この点に関しては、

(一)  民法にいう債務者の責に帰すべき事由とは、故意過失又は、信義則上これと同視し得る場合を指すのであるが、労働基準法にいう使用者の責に帰すべき事由とは、これよりひろく、経営者として、不可抗力を主張し得ない一切の場合を包含する。

(二)  休業手当を請求する場合には、労働者は履行の提供をなすを要しないが、民法上の責を問う場合には、これを要する。

と解すべきところ、証人近藤員由、同彦井彦左衞門の証言と前記五十嵐賢次の供述とを綜合すると、昭和二十四年四月二十三日以前の爭議においては、「從業員組合」が職場別のストライキを行う場合には、その都度被申請人会社と話し合つて、直傭員に対しては別の仕事を與えて就業させていたこと、四月二十三日以後の爭議の際は、右のような話合いがなかつたこと、前記油脂部門のストライキに際し、同部門に勤務していた直傭員が、被申請人会社に対し、タンク掃除の残務に從事させてもらいたい旨を申し出たところ、被申請人会社は、監督者がいないことを理由にこれを拒否したことが一應認められるのであつて、かかる事実に基けば、被申請人会社は、もし右直傭員に仕事を與えようとすればたやすくこれを與え得たと認められるから、被申請人会社は、右休業について故意があり、從つて右直傭員に対し、賃金全額の支拂をなすべき義務がある。その賃金は、当裁判所が眞正に成立したと認める甲第十四号証によれば別紙目録(二)の賃金額欄記載のとおりであると一應認められる。

二、つぎに、前項に述べたところから理解し得るように、民法第四百十三條或いは同法第五百三十六條第二項所定の要件が充たされているときは、当然労働基準法第二十六條の要件も充たされているということができるから、本件において、労働者側からの申立があるときは、右賃金額の一〇〇分の六〇に相当する附加金の支拂を命ずることができるわけである。

而して、本件の場合、被申請人会社において、所定の賃金支拂期日までに、休業手当相当額の金員を提供したとの疏明がないから、申請人の申立により附加金として、右賃金額の一〇〇分の六〇(別紙目録(二)附加金額欄記載の金員)の支拂を命ずるのが相当である。

三、しかしながら、被申請人会社は右の限度を超えて、附加金の支拂をなすべき債務を負つていないから、右の限度を超え、賃金全額に相当する附加金の支拂を求める申請人の本件申請は失当である。

四、つぎに、右一、二項において認められた賃金並びに附加金を、本案判決の確定をまたずに仮処分により右申請人組合の組合員に取得せしめることの緊急の必要性については、その疏明が十分ではない。ことに右直傭員は、月々に定まつた賃金を得ていることは、弁論の全趣旨に徴し明らかであるから、即時右金員を取得しなければ、その生存権がおびやかされるものとは解し難い。

五、よつて、右賃金並びに附加金の支拂を求める本件仮処分の申請も失当である。

第五結論

以上述べたように、申請人の本件仮処分の申請は、いずれもその理由がないから、右と異る認定のもとに昭和二十四年十月二十六日当裁判所が発した仮処分決定は、これを取消し、その申請はこれを却下すべく、訴訟費用は、敗訴当事者たる申請人をしてこれを負担せしめ、なお、右仮処分を取消す部分については仮執行の宣言を附するを相当と認め、主文のとおり判決したしだいである。

(裁判官 柳川眞佐夫 中島一郎 高島良一)

(別紙目録省略)

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